クリスマス・ブルー 第3話

 
 おれは地下に長くいた。

 地下はひどく荒っぽい場所だ。客は調教権をとらずに遊べる。試乗もできるし、気に入れば一日レンタルもできる。
 費用は正規の調教権をとるよりもずっと安い。客の扱いも自然と粗くなった。

 犬の怪我は日常茶飯事。発狂するやつも少なくない。
 いい犬はこんなところには来ない。来るのはランクの低いクズ犬ばかりだ。

 おれはここのペットショップで客を待っていた。
 エキゾチックな東洋人を抱きたがる客はいたが、おれが足をひきずるのを見ると、飼うのは遠慮した。誰だって連れて歩くのは、見栄えのいいほうがいい。

 おれはいつも望みをかけ、そのたびに落胆してきた。何度もヤケになりそうになった。アクトーレスのジョニーになだめられ、すかされ、気の狂いそうな日々を騙し騙し生きてきたのだ。

 だから、今度の主人はしくじれない。あそこには絶対に戻りたくなかった。

「ご主人様」

 中庭で主人の骨っぽい指になでられ、おれは鼻にかかった声を出して、甘えた。犬がそうするようにあおむけになり、もっと下のほうを撫でてくれと腹をさらす。

 主人がまぶしそうに目を細める。彼の手が腹をつたうと、おれは魔法でもかかったように甘えた声をあげてみせた。

「ふ……ご主人様……もっと――アア、ん」

「これ、外だよ」

 そういいつつも、その目はまんざらではない。「さ、きちんとおすわりしなさい」

 おれは言いつけにしたがい、身をおこし、彼の指をちゅうちゅう吸った。

「わかった。わかった」

 主人は相好をくずした。「部屋へ行こう」

 主人はいつものようにおれのセルでおれを抱いた。
 あいかわらずのふにゃちんだ。尻の中をしなびたナマコが出入りするようだ。

 おれはイけなかったが、満足したふりをして、主人の股間を湯で拭いた。
 湯拭きしてやったり、マッサージしてやったり、主人はこうした東洋的な気づかいをよろこぶ。

 きれいに拭い終えた後、ついイタズラ心を起こしてペニスを舐めた。

「これ」

 主人が笑う。おれは調子に乗ってさらに舌をつかった。彼の腰にすがりつき、世界で一番おいしいアイスキャンデーのように丁寧に舐め上げた。

「わかった。わかった」

 主人はおれの頭をはがして、笑った。

「そんなに吸い取るんじゃないよ。年なんだからな。おまえ、なんか欲しいのか。クリスマス・プレゼントに何か買ってやろう」

「ほんとに?」

 おれは一瞬、「おれを買い取ってくれ」と言いそうになった。
 だが、それはこの主人には高すぎる買い物だ。

「じゃあ、スシ! うまい寿司をハラいっぱい食べたいです」

「もう少し高いものでもかまわんよ。ジュエリーはどうだ」

「おれ、わからないもの。クリスマスのディナーにマグロの大トロ食べさせてください。舌のうえでじゅわっととろけるようなやつ。ね」

 主人はおれのつましい願いをよろこんだ。

「わかった。ドムス・アウレアに日本人シェフのいる日本料理屋がある。予約しておいてやろう」




 主人のプレゼントはそれだけではなかった。
 彼は真珠のつらなったセクシーな衣装を送ってくれた。

 箱から出した時には、なにがなにやらわからなかった。真珠の首輪と真珠の小さなブラジャーと帯、さらに真珠のふんどしがつながったようなものだ。
 だが、本物の真珠だった。四千万セスはするという。

「あのケチが」

 おれが思わず口走ると、アクトーレスのジョニーは大笑いした。

「着てみろよ。お嬢ちゃん」

 彼の手をかり、複雑な衣装に手を通す。ブラジャーは乳首を、ふんどしから出た真珠の塊は肛門を刺激するようになっている。

「あはは、這うとケツに当たる。こっちの余っているのはなんだ」

「これ、あれだ。ペニスにからめるんだよ」

「やんなっちまうなあ、もう」

 おれたちは卑猥な衣装にゲラゲラ笑い、子どものようにはしゃいだ。
 衣装の下にはカードが入っていた。

 ――ヒロ。メリー・クリスマス。この衣装はちと高かったが、おまえのきれいな肌に似合うと思う。

「よかったな。ヒロ」

 ジョニーはおれの担当が長い。本心から喜んでくれていた。おれはギャハギャハ笑っていたが、泣きそうだった。大事にしてくれる保護者がいるとはなんと幸せなことか。

 主人を大事にしないやつは馬鹿だ。あたえられた境遇に不平ばかり言っているやつは馬鹿だ。

 マキシムは馬鹿犬だった。その日、彼はセルから逃げた。



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